母と花火の話

今日は長良川で大きな花火大会がある。というか今まさに始まったところ。

隣の市の私の家から音だけは聞こえる。

 

母は花火が好きだ。理由はよく分からない。あえて聞くことでもないので、「ああいうお祭りが好きな人」なんだろうなと思っている。本人がそんなことを言っていた気がしないでもない。覚えていないけど。

実際、小さい祭りでも大きい祭りでも、祭りがある日はそわそわしている。市の春の祭りなんかの時には「今日、祭りあるよ」とかLINEで声をかけてくる。行きたいとも、行こうとも、行くの?とも言わない、ただの報告みたいなLINE。こっちとしては祭りがあるからなんなんだ。としか言いようがない。けどこれは母なりの誘いだから、なんなんだ、とか言ったりはしない。さすがにかわいそう。

誘ってくるのは、自分が行きたいのか、それとも私たち娘のことを、地元のヤンキーと中高生の同窓会みたいになる、屋台が連なって、キャラクターまみれの俗っぽいミコシで溢れるだけの田舎の祭り(きちんと由来のある祭りなんだろうけど表向きはそういうものにしか見えない)で喜ぶ子供と未だに思っているのか、その辺もよく分からないが、多分どっちもで、どっちかというと自分が行きたいんだと思う。で、私や妹は時間が合えば付き合うというか、母を急かして仕事を早く終わらせて祭りへ連れて行く役目に回る。お祭りごとが好き。でも一人で行くのはなんかちょっと。それに仕事もあるし。母の誘いは私たちへの、店を早仕舞いするきっかけを作って欲しい、っていう要請と受け取っている。彼女はそんな意識はないかもしれないが、事実「今日、祭りあるよ」のLINEに「そうなんだね」って返したら落ち込むのは目に見えている。あの人は自分で仕事を切り上げるのがとても苦手だから。仕事より遊びを優先するのを悪だと思っている節もある。ので、私たち娘は母をそそのかす悪魔役を買って出る。私たちは常日頃から彼女はもっと遊ぶべきだと思っている。全員成人して稼いでいるけどそれでも回らない家計のため、必死なのは承知の上だ。

 

一方で私は長良川でやる花火大会が大好きだ。初めて見たのは高校生の時。岐阜市内に住む友人に誘われて見に行った。見る前までは、ものすごく混むと聞いていたし、人混み嫌いだし、地元でも花火大会はある(母と毎年欠かさず見ている)し…。とかうだうだ思っていたけど、そんなのは、奇跡的に打ち上げのすぐ近くの河川敷を陣取って、第1発目のスターマインがどんと打ち上がるのを見た瞬間に全部ぶっ飛んだ。言葉にはできないけど、人生の年表に大きく書き記すべき感動だった。そりゃみんなこぞって場所取りして人混みも我慢して見に行くよ。と思った。で、これは母を何としてもここに連れてこなくてはと思った。でもこれがなかなか叶わなかった。地元の花火は母の店からでもよく見えるからなんの問題もなかった。地元の祭りも店から徒歩10分で行ける。でも岐阜市の花火は、岐阜市の花火は、早仕舞いが苦手な彼女にとって、とにかくかなりの難易度だった。

 

岐阜市の花火は2回ある。理由を知っていると苦笑いするしかないが、まあこっちとしてはオイシイし、これは全国的にも珍しいことらしい。で、2回とも規模が大きく、とにかく混む。ものすごいことになる。母が会場に行くには車しかない。電車の便がとにかく悪いのだ。でも開始時刻ちょうどになるように車で出発すれば、会場に着く前に花火の音だけ聞きながらトンボがえりすることになる。渋滞でまずたどり着けない。よって彼女はいつもより4時間近く早く店をしまうことが必須となる。この時点でハードルが高すぎて諦めてしまうのだ。誘っては断られ、誘っては断られが続いた。見たことはなくても、長良川の花火大会がどれだけ魅力的か知らない母ではない。それが悲しかった。でもついに昨年、途中からだったけど、私が初めて見たのと同じような場所で、家族でそろって見ることができた。店に手伝いに来てくれているお姉さん(70歳)が車で送ってくれて叶った。母はこの日から、来年は絶対もっと早く店を閉めて、長良川の花火大会に行く、と自分から言うようになった。

 

今日は長良川で行われる1回目の花火大会の日。今日は見送って、来週の2回目の花火大会に彼女は行く。絶対に行くのだ。自分から。それが本当に嬉しい。私も気合を入れて場所取りしたいと思っている。

 

私の次の目標は、「仕事でなかなか都合がつかない恋人と、いつか一緒に見に行くこと」になった。